Raptor Migration Symposium 2002

ハチクマシンポジウム イン 佐世保
― 第3回タカの渡り全国集会 2002 ―

  1. 日 時   2002年9月7日・8日
     
  2. 主 催  佐世保渡り鳥研究会
    共 催  (財)WBSJ長崎県支部 / タカの渡り全国ネットワーク / させぼ塾
     
  3. 会 場  長崎県佐世保市烏帽子町 県立佐世保青少年の天地 本館大研修室
     
  4. 主催者あいさつ
     
  5. 講演「ハチクマの識別」 バードコーディネーター 川田 隆

     ハチクマ属は世界に3種知られており、ヨーロッパハチクマ、ヨコジマハチクマ、ハチクマで、前者2種には亜種はない。ハチクマ(Pernis ptilorhyncus)は6亜種に分けられており、日本のハチクマ(P,p,orintalis)は他の亜種と比べ体が僅かに大きく、翼が長いとされる。

    <他種との識別>
     ハチクマの体色は多様で、特に体下面の色彩と模様は個々の個体で異なっていると言っても過言ではない。さらに雄、雌、幼鳥でも大きく異なるために、他のタカ類との識別は難しい。
     最近ミサゴはダム湖にかなり出現してる。また、クマタカは標高300m付近にも生息しているためミサゴ、クマタカとの生息圏はハチクマと重なっている。
    【ミサゴとハチクマ淡色型】 ミサゴは翼が細長く、次列風切羽の膨らみはなく直線的で外側初列風切羽の突出は5枚である。ハチクマは次列風切羽に膨らみがあり外側初列風切羽の突出しは6枚である。静止時には翼の長いミサゴは尾先を越えるが、ハチクマは尾先を越えることは無い。
    【クマタカとハチクマ淡色型】 クマタカの頭部は太く、次列風切羽の膨らみは大きく翼の幅が広く見え、外側初列風切羽の突出は7枚である。尾羽下面は暗褐色の太い縞がクマタカ成鳥では3〜4本見え、ハチクマの雄では2本しか見えない。クマタカ成鳥の頬は暗褐色で、虹彩色は黄色か橙赤色である。ハチクマの雄の頬は灰褐色で、虹彩色は暗褐色であるため、頭部を詳細に見れば識別できる。クマタカ幼鳥とハチクマ淡色型幼鳥は非常によく似ており、尾羽の縞や虹彩色、頬の色彩が同一に近い個体が見られ要注意だが、頭部と翼の形状が異なるので識別は可能である。
    【トビとハチクマ中間型】 トビの尾羽は凹尾で少し開くと三味線のばち型になる。帆翔時は翼角から翼先が下がり、翼全体がへの字に見え、初列風切羽の付け根の白斑が目立つ。ハチクマの尾羽は円尾であり、帆翔時には翼は直線的に開きトビのような白斑はでない。
    【ノスリとハチクマ中間型】 ノスリは翼も尾も短く、脇腹に褐色の大きな斑を持つ個体が多い。尾羽は明確な縞模様は無く、外側初列風切羽の突出は5枚である。ハチクマは翼と尾羽が長く、脇腹に大きな斑はない。尾羽の縞模様は雌雄、幼鳥共に明確である。
    【イヌワシとハチクマ暗色型】 イヌワシの頭部は太く、尾羽が長い。さらに尾羽に明確な縞模様は無く、外側初列風切羽の突出しは7枚である。ハチクマは頭部が細く、尾羽の縞模様は明確である。

    <雌雄の識別>
    ・雄の頬は灰色または灰褐色で、虹彩色は暗色である。雌の頬は淡褐色から暗褐色で、虹彩色は黄色である。ただし稀に雌の頬が灰色みを帯びている個体。虹彩色が雌雄共に赤色の個体も観察されている。
    ・雄の初列風切羽には黒褐色の太い縞模様が4〜5本、次列風切羽には3〜4本あり、先端部の縞模様は特に太い。雌の初列風切には細い縞模様が5〜7本、次列風切羽には4〜5本あるが、淡色部との濃度差が少ない。外側初列風切の突出部が縞状にならず全体に暗色に見える個体も観察される。
    ・雄の尾羽には黒褐色の太い縞模様が飛翔時に下から見ると2本見える。雌の尾羽には細い縞模様が飛翔時に下から見ると3〜5本見える。雌でも先端の縞模様が太い個体もまま見受けられるが、付け根の縞模様は細く数も多い。

    <幼鳥の識別>
     ハチクマの幼鳥は体色が雌雄成鳥と類似しており識別が難しいが、体色と飛翔型で識別は可能である。
    ・ハチクマ幼鳥は嘴付け根とろう膜が黄色く、虹彩色が暗褐色(稀に黄色)である。成鳥の嘴とろう膜はすべて灰黒色、雌の虹彩色は黄色である。
    ・ハチクマ幼鳥は飛翔時下面からみると、外側初列風切の突出部の淡色部が濃く、翼先が暗褐色につぶれて見える個体も見られる。次列風切羽も同様に、全体が暗色に見える個体が多い。成鳥雄の風切羽の縞模様は間隔が広い上に、淡色部が白色に近く、タカ斑が目立つ。成鳥雌の風切羽の縞模様は幼鳥に似るが、初列風切羽の縞模様は秋期は明確にタカ斑状にみえる。しかし換羽終了後の春期においては幼鳥同様に翼先が暗褐色につぶれて見える個体も見られる。
    ・ハチクマの幼鳥は帆翔時に初列風切羽と次列風切羽の境、P1とS1のところで羽先のラインが段差状に見える(成鳥に比べ、P1〜3が特に短い?)成鳥は帆翔時にP5から次列風切羽までの羽先のラインが滑らかな曲線に見える。
    ・ハチクマ幼鳥は風切羽に欠損は無く、あるとすれば何らかのトラブルであり、翼の片側だけに見られる。ハチクマ成鳥は繁殖期の滞在期間が短く、全身換羽が終了しないうちに渡りをはじめるため換羽途中であり、両翼のP3〜6辺りの羽が欠損しているか伸長中の個体が多い。
     ハチクマの若鳥、亜成鳥については謎がおおく、現段階では明確な資料がない。ただ、春期各地で延べ千羽以上の個体を観察したが、P1とS1の所で羽先のラインに段差を認める幼鳥タイプの個体を確認できていない。最初の冬で風切羽すべての換羽を完了するとはサシバやノスリの例も考えられない。少なくとも孵化した翌年は、越冬地周辺に留まっていると考えるのが妥当である。亜成鳥については、尾羽に太い2本の縞模様がありながら、頬が灰食味が無い雄や、外側初列風切羽の淡色部が濃く羽先全体が暗色に見える雌などが亜成鳥と考えられなくも無いが、体色差の多いハチクマにおいては個体差の範囲とも考えられる。

    <体色の識別>
     ハチクマの体色は千差万別であり、体下面の地色は白色から黒色まで濃淡は無段階に存在する。この無段階にある濃淡を色別に表現するのは無理があるため、正規文書に記載する場合は淡色型、中間型、暗色型と表現するほうが適正だと考える。
    体下面は体(胸及び腹部)、翼、尾羽に大別されるが、尾羽と風切羽は性差及び年齢さによる違いがあるため除外し、体と下雨覆の色彩を個体差として識別している。しかし、体と下雨覆の色彩は必ずしも一致しないため、体の色彩を優先的に記録している。なお濃くて太い縦斑や横斑がある個体であってもあくまでも地色を基準としている。
    【淡色型】純白から象牙色の地色を有する個体を通称「白」と呼んでいる。このタイプの雄は非常に稀で、過去18年間各地で秋期観察した中(12692羽中識別した8004羽)で22羽。雌は104羽、幼鳥は475羽であった。全体の占める割合としては7.5%と一番少ないタイプであるが、伊良湖岬においては白の幼鳥が他の地域より多く10%を越えている。
    【中間型】黄土色から桧皮色の地色をもつ個体を通称「茶」と呼んでいる。中には橙色に近い色彩の個体もいるがこれらも含む。雄、雌、幼鳥の別なく多く、一般的で全体の82.3%である。
    【暗色型】焦茶色から黒色の地色を持つ個体を通称「黒」と呼んでいる。このタイプは「白」に比べて雄、雌、幼鳥が平均して見られ、体色の識別が出来た8004羽中雄166羽、雌178羽、幼鳥470羽であった。全体では10.2%である。
     上記の数字には大多数が幼鳥群の伊良湖岬での記録を含むため、実際の割合とは異なる可能性がある。今後各地での記録を積み重ねて分析する必要がある。

    <模様の識別>
     ハチクマの体下面には地色の色彩に関係なく、無斑、縦斑、横斑のある個体が見られれる。体羽一枚一枚に暗色部が軸に沿ってあるか、羽先にあるかの違いで縦、横の斑状の模様になる。体羽に濃淡の差がない個体は無斑となる。なお、脇については横斑状になる傾向が強いので、体の中央部を重点に区別している。
    ・縦斑型は淡色型と中間型に見られ、暗色型には見られない。さらに幼鳥に多く、雄は縦斑状の模様になる個体がほとんど見られない。
    ・横斑型は幼鳥には少ない。暗色型では体の一部の地色が淡色になり、暗褐色の横斑点が現れる個体を横斑として記録している。
    ・無斑型は淡色型には少なく、幼鳥に多い傾向がある。

     このように区別して記録を取った結果、ハチクマの体の模様は幼羽から成羽に換わる段階で変化すると推測される。体下面の模様は個体識別以外にあまり利用度がなく、判別基準も曖昧にならざるをえない実情にあるが、今後データの積み重ねにより何かが見えてくる物があるはずだと考える。

  6. 六ヶ岳のハチクマの渡り WBSJ筑豊支部 小河
  7. 福岡市におけるタカの渡り(片江展望台の記録) WBSJ福岡支部 小野 仁  
  8. 大分北部の八面山の春の渡り WBSJ福岡・大分県支部 山本兆司
  9. 唐津市鏡山の秋の渡り 佐賀野鳥の会 森本満樹
  10. 五島列島福江島を渡るハチクマの記録 WBSJ愛媛県・長崎県支部 井上勝巳
     
  11. スポッティングスコープ ミニ知識 興和梶@小口

    2日目 9/8 

  12. アカハラダカの渡り観察会(烏帽子岳駐車場) 7:00-8:30 WBSJ長崎県支部 鴨川 誠 
    アカハラダカ観察会の様子

    説明:長崎県支部長 鴨川氏

    烏帽子岳定点調査地にて


                                   
  13. ハチクマの渡り(秋期)年齢構成他 信州ワシタカ類渡り調査研究G 久野公啓
  14. 広島タカの渡り研究会の結成と活動 広島タカの渡り研究会 内海貴明
  15. タカの渡り全国ネットワークの取り組み HMNJ事務局 熊崎詔之
  16. アジアにおけるタカ渡り調査の現状と課題 ARRCN事務局 新谷保徳
  17. パネルディスカッションは時間都合上 中止
     
  18. その他連絡事項・要望
  19. タカの渡り全国ネットワークの運営他 諸連絡 HMNJ事務局:熊崎詔之
  20. 2003年タカの渡り全国集会開催地について WBSJ徳島県支部 東條秀則
  21. 閉会のあいさつ WBSJ長崎県支部長 鴨川誠
  22. テレメトリー調査ワークショップ 信州ワシタカ類渡り調査研究G 木下通彦・久野公啓

    八木アンテナを説明する 信州タカ渡り研:木下氏




 当日は午後からアカハラダカの渡りが本格化しアカハラダカ4461羽のシーズン最初の大きな渡りに遭遇できました。100羽以上の群れがドンドン沸きあがる様子は壮観そのもの。スゴイスゴイと歓声の連発でした。

 左の写真は熊崎がディジカメで3倍ズーム115mm相当(35mm判換算)で撮影したものです。肉眼に近い雰囲気です。