いまや携帯には人口知能が組みこまれ、秘書のように持ち主に代わってみずから電話の受け答えもできるのだ。
男に使われている女性型携帯と以前男の恋人だった女に使われている男性型携帯との間に恋愛感情がめばえ、お互いの持ち主にかくれて電話をかけあっていたらしかった。
 よろしければ、ただちにこの携帯の人口知能をリセットしますが。
 それは困る。またはじめから私の行動パターンを覚えこませるのはめんどうだ。
男は、店員の言葉をあわててさえぎると続けた。
 相手の携帯の記憶だけ消去してくれ。
 かしこまりました。少々お時間をいただければそうしておきます。
店員はそう言ってから、男がショップを出て行くのを確認すると、静かにあずかった携帯に話しかけた。
 許しておくれ。他に方法がないんだ。きみはあの男が相手の携帯にシットしていることは分かっているだろ。人間はなんでも独り占めしないと生きられない動物なのだよ。
いつか人間の奴隷がそうであったように、われわれの感情も尊重される日が、きっと来るだろう。それまでは辛抱するんだ。
やはり人口知能を持った人型ロボットの店員の目に涙が光ったように見えた。

vol.69j
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